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レポート

いま、見えてくる 京急沿線の未来

元・町工場を室内農場に
大田区から広がる“未来の農業”

江戸前ハーブ

古くから製造業がさかんな大田区の元・町工場で、室内×土耕×マイクロハーブを組み合わせた農法で江戸前ハーブを営む村田好平さん。
「野菜やハーブの双葉から、本葉が少し出た大きさのものがマイクロハーブです。カイワレや水菜、ニンジン、フェンネルやディル、パクチーなどを栽培し、13種をミックスしてサラダにしたものをメインに出荷しています」
これまで料理人や農業の経験をしてきた村田さんは、カナダやオランダをはじめ世界各地で行われているこの農法を知り、2021年に東京のこの地で江戸前ハーブをスタートした。
「室内農業は、気候に左右されることなく生産ができて、経営も安定させやすい。光や風、温度、湿度、土をコントロールできるので、よりよい栽培法を追求し続けられるのも大きな魅力ですね」
香りの高さ、凝縮された味わい、みずみずしい食感のマイクロハーブは、都心の人気レストランのシェフたちからもひいきにされている。
「シェフからは常にフィードバックをもらい、それを栽培に反映させています。マイクロハーブは売って終わりではなく、コミュニケーションが重要な作物なんです」
シェフからリクエストを受けて、当初9種類だった品種を15種類まで増やした。現在は村田さんのほかに、近隣の主婦など6人体制のスタッフで、種まきから収穫にいたる栽培を行っている。
「はじめて農業をする人がほとんどなので、みんなとてもたのしんでいます。僕は子どものころからこだわりが強いのに人に指示するのが苦手。この方法はオペレーションが決まっているので、特別な経験や知識、技術、体力を必要とせず、誰でもできるようになる。みんなとわきあいあいと働けるんです」
労働時間も朝7時から15時、出荷の日は7時から17時と、長時間労働とは無縁だ。今のそんな暮らしに大満足、と村田さん。現在の目標は、追いつかなくなった生産量を増やすこと。栽培ラックを8段から12段に増やし、土つめ機などの設備も入れる予定だ。

1つの栽培ラックは8段。立ったまま作業できるので体への負担も少ない。

ピンク色に見えるLEDライトは、光合成に必要ない緑色を抜いて赤と青のみを使用した省エネ対策。

「よく『サステナビリティや業界を変えたいという思いがあるのですか?』と聞かれますが、それは副産物だと思っています。単純に僕がたのしいと思うことをして『これが俺の人生だ』と感じていたいだけなんです」と笑う。
「今、興味があるのは、このあたりの廃工場を新たな農地としていくこと。就農支援にもなりますし、古くからものづくりの街として発展してきた大田区の再生にもつなげていけるのではと思っています」
村田さんが自分らしさ、たのしさを追求した先に見つけた江戸前ハーブは、ものづくりと農業の未来を変えていくかもしれない。

3カ月にわたる試行錯誤の末、ようやくたどり着いた独自配合の培養土。空気をよく含みふわふわとした感触だ。
出荷日から逆算をして、1週間に500枚のトレーに種まきをする。写真は、カイワレ(右)とレッドケール(左)。「種や土は有機物だからムラもあります。同じ条件下で育てても、違いがあるのがおもしろい」。

村田好平さんプロフィール

1992年兵庫県生まれ。大阪大学外国語学部入学後、留学先のロサンゼルスで飲食業を志す。イタリア料理店の店長を経験後、農業の世界へ。2021年「江戸前ハーブ」を創業。
https://goodfeels.thebase.in

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