001

レポート

三浦半島の生き物に会いにいく!

虫の声と波の音に誘われてやってきたのは、森と海に囲まれた岬に立つ観音崎自然博物館。三浦半島と東京湾集水域の自然史を展示する小さな博物館が、目の前に広がる自然と私たちとのつながりを教えてくれます。

観音崎自然博物館で三浦半島の里山から海までをたどる

観音崎自然博物館ができたのは、今から70年前の1953年のこと。ペリー来航から第2次世界大戦まで軍事拠点としての役割を持ち、民間人が立ち入りできなかった観音崎エリアを平和利用しようという目的で建てられた博物館だ。自然と人のかけはしとなることを目指した体験型の博物館には、標本だけでなく生体も多数展示され、ときにはそれらを触りながら見学できるようになっている。
「私たちは東京湾に流れる川の源流から湾口までを東京湾集水域としています。その水域と三浦半島にあるリアルな自然が博物館のテーマ。館内では、雨が地面に染み込んで地下水になり、それが川となって海につながっていくという里山から海までの一連の流れが感じられる展示をしています」
学芸部長の山田和彦さんの案内通りに館内を進むと、「里山と干潟」エリアでは「気持ちよく寝てたのに」と言わんばかりに怒るクワガタもいれば、るり色の斑点で頰を染めているような淡水魚ルリヨシノボリも。「海の生物」では、イセエビがたっぷりにポーズを決める。
パネルからは、クワガタのオスとメスの見分け方、クジラとイルカは実は大きさで名前が分けられているだけということなど、トリビア的な知識も目に入ってくる。食いしん坊のあまり、エサが入ったビンのを自分で開けたタコの話など、個性豊かなエピソードも楽しい。深海に住む世界最大のイカと名高いダイオウイカや、生きた化石とも悪魔のサメともいわれるミツクリザメの標本は迫力満点!
「東京湾には深海もあるんです。ダイオウイカもミツクリザメも近くの海で捕れたものなんですよ」

「海の生物」エリアで待っているのは、全長2.9mのウシマンボウの実物大レプリカ。三浦半島でウシマンボウが見られることはまれだが、2022年には三浦海岸に漂着したという。

自然に触れて生まれる、コロンブスの卵

観音崎自然博物館は、東京湾唯一の岩礁海岸と多様性に富んだ森に囲まれている立地を生かし、フィールドワークやイベントも多数実施している。そこには、生き物に興味や関心を持ってもらい、その実態に触れることで、生き物の魅力だけでなく人間活動と自然が密接に関わっていることを伝えたいという学芸員らの願いがある。
「里山だったエリアの開発が進んだことで、生き物たちが生きにくくなっているんです。それは三浦半島でも起きています。さらに、人為的に持ち込まれた外来種が在来種を捕食したり、交雑によって在来種の独自の遺伝子が失われたり。温暖化などが引き起こした磯焼けは海の生き物たちのすみかである藻場を減少させています」と、学芸員の佐野真吾さんは言う。佐野さんは、4歳から小学生の親子を対象に企画された「おやこ里海・里山探険隊」などのイベントも担当している。
「遠くに行かなくても自然は僕たちのすぐそばにある。足元の自然に興味を持つことが、環境への理解を深め、視野を広げる一歩。そこから、生き物を守るための誰も思いつかなかったようなアイデアや発見が生まれるかもしれません」
山田さんも「博物館の展示や活動に触れた子どもたちから、そんな〝コロンブスの卵〟が生まれてほしい」とバトンの引き継ぎ手に期待を込める。
森を背にして博物館の芝生広場から海を眺めると、森と海がつながっていること、自然は享受するだけのものではなく、守るべきものでもあるということが感じられる。観音崎自然博物館を訪れたら、生き物たちとそれらを育む自然の変化にも思いをめぐらせてみよう。

学芸部長 山田和彦さんプロフィール

京急油壺マリンパーク(2021年閉館)、おさかな普及センター資料館を経て、2015年から観音崎自然博物館の学芸員。魚類・海洋生物の調査や展示などを担当し、なかでもタコとイカがお気に入り。目印は魚柄の服とビーチサンダル。

学芸員 佐野真吾さんプロフィール

担当は昆虫、淡水生物。子どものころからゲンゴロウに魅せられ、現在も研究中。相棒はタモ網。学芸員とともに継続的なフィールドワークを行う「ジュニア生物調査隊」を結成。

ARCHIVE

  • 003

    レポート

    横須賀をe-sportsの聖地へ

    全世界のe-sports人口は、今や1億人を超える。新しい文化としても、ビジネスとしても成長が見込めるこの業界に横須賀市はいち早く目を付けた。まちを元気にする起爆剤、只今セットアップ完了!

    VIEW MORE

  • 002

    レポート

    いま、見えてくる 京急沿線の未来

    製造業の中心地、大田区の町工場で栽培される香り高い13種類のマイクロハーブ。元料理人が自分らしさを追求して創り上げた“未来の農業”をレポート。

    VIEW MORE